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メビウス~無限∞回路

第2章 救いのない空を




『ねぇ、またボクを殺すの?…』


 ぽつりと呟かれた言葉に、瞳を上げる先に背後で闇が伸びている。ようやく戻った感覚に、悪霊となる寸前―――寄生植物に食われた事実を尊は知った。

「メンドクサイ…」
「またそんなことをいう…」

 溜息と同時に額を押さえる暢気さを見せる神楽に、闇は鋭く研ぎ澄まされた切っ先が向かう。
 後数センチという位置でその刃は届くことなく止まった。
先ほどまで盾として守っていた少女が、神楽の前に両手を広げて少年の闇を制したのだ。

『やめて…もう…お願い…』

 ほろほろと零れ落ちる雫。頬を伝い少年の額へ吸い込まれて消えていく。
 感情の雫が少年の赤く濁った瞳から、生来にあった瞳の色へ変化していくのを神楽は、ほっとした心地で安堵した。―――もう、大丈夫だ。

『やめて…』

 繰り返される言葉に少年の大きな瞳も涙が浮かんでいた。

『おねえちゃん…』

 誕生日当日に殺害された少女は、弟をずっと探していた。あの時手を離してしまったから、弟は上へ上に逃れて行こうとしたのだと、ずっとずっと悔やんでいた。

『…………』

「送ってやるよ、本来の場所へ」

 尊は苦笑して言うと両手を合わせた。

「畏(かしこ)しや打(う)ち靡(なび)く天(あめ)の限(かぎ)り尊(たふと)きろかも打(う)ち続(つづ)をく地(つち)の極(きは)み萬(よろづ)の物(もの)を生(う)み出(いで)て統(す)べ治(をさ)め給(たま)ふ大神(おほかみ)世(よ)の限(かぎ)り有(あ)りの尽尽(ことごと)落(お)つる事無(ことな)く漏(も)るる事無(ことな)く命(みこと)を分(わ)かち霊(みたま)を通(かよ)はし稜威(みいづ)輝(かがや)き給(たま)ふ神(かみ)の御名―――」

 鎮魂(みたましづめの)祝詞(のりと)を言葉にしだすと、二人の姿は自ら浄化するみたいに発光し、細く揺らぎ空を目指して浮いては消えていった。

「これで二人は新しく始められますね…」

 横を見ると既に尊の姿はなく、先に行ったのだと神楽は苦笑して飛翔する。浮かんで沈むと大地ではなく部屋の一室に立っていた。


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