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メビウス~無限∞回路

第2章 救いのない空を

「尊がいつも続けていう癖がありますから」

 満面の清清しいというべき笑顔があるとすると、神楽が浮かべたこの表情をいうのだろう。
 尊は思っていたことを先に言われたことや、見抜かれていた癖の恥ずかしさを誤魔化す為に舌打ちした。

「………仕方ねぇか」

 相手からは尊の姿は見えない。見えるとしても光がちらちらと動いてるだけだ。
 それは地獄に堕ちた魂のなれの果てが転生した姿である以上、どうしようもない事実だった。
 尊はひふみを唱えながら、自身の力をより清浄へと近づけて集中し意識を利き手に向ける。
 手先に伸びだした気だけが白銀から黄金に変化する。無音で伸びていく気は尊が愛用している『陽炎』と名前をつけた長さは敵に合わせ自動的に変わるという便利さもある剣があった。

「遠祖神(とほかみ)恵(え)み給(た)め祓(はら)ひ給(たま)へ清(きよ)め給(たま)へ…怨霊退散!静寂昇天!あの世に塵と還れ!!」

 三種(さんしゅの)大祓で剣は一回り、否―――二周りほど太くなり少年に巻きついていた蔓を一筋落とした。

「神楽!」
「承知!」

 同時に紡ぎだされた神楽の風が、嘶き暴れては未曾有に呪詛を吐き散らす勢いで絶叫をあげてのたうつ寄生植物から、少年の淡い魂を救い出す。
 ほどなく更に重ねて切り伏せる尊の剣と祓詞に深支子(こきくちなし)の雷に打たれ炎上していた。
 少年は審問の門を通ることも出来ないほど草臥れている。神楽が様子を見ていると、虚ろな瞳はまばたきひとつしない。
 このまま砕けて消える寸前だったのだろう。尊の黄金に光る剣を消した掌がちょうど心臓の位置辺りに置かれた。
 そこは物音ひとつしない場所であったが、生きている者ならば必ず強い鼓動が奏でていた箇所。一度離した手を高く鳴らすと魂振りし、両手を小さな胸に押し当てた。

「………っ」

 死者に気を分け与えるということは、生を与える真似に近い。額から汗を流す尊に神楽は、ズボンのポッケに入れていたハンカチでその汗を拭う。
 蒼白だった少年の魂にわずかばかり色が戻ってくる。安全だと思えるほどに注ぐと、尊はその両手を離して後ろに腰を落とした。
 意識がまばらだった虚ろな瞳に意思が確認できるほどになると、少年は瞳をカッと開き尊を見た。

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