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メビウス~無限∞回路

第6章 祭り

 キッパリと言い切ると水面で口をパクパクさせる金魚を見る。遠回しに出せと言われた訳ではないのが。

「………一回するなら出しますよ?」
「いんねーよ」

 答えはいつもと同じ。神楽は長身を屈ませて、尊の顔を見上げる。毎回居座るくせに、するつもりはないと言う。

「なにか引っ掛かりますか?」

 だから質問を変えた神楽に、尊は薄い笑みで答え歩きだす。少し離れて歩く神楽にのみ届く声で呟いた。

「金魚って人間に似てるなって思ってみてた…」
「そうですか?」
「うん…まあ、俺さまの感覚だから気にすんな」

 尊が金魚に何を見たか、答えるつもりはないらしい。神楽もあえて聞こうとは思わず、風に靡く後ろ頭を眺める。

「しっかし浴衣っていいな~」

 既に別のものを―――物色しだしていた。


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