メビウス~無限∞回路
第7章 鳴き声(前編
車が走る大通りの隅に、小さな子猫が横たわっている。それは固く冷たく凍えた寝姿。--
「憐れなことだ…」
誰にも省みられずに、時間を止めてしまった亡骸を前に彼は呟く。それは闇から不意に現れたような感じだろう。黒い髪は肩辺りまでの長さを無造作に流している。白い肌に生気らしい色合いは薄く、瞳も真っ黒で漆黒という出で立ちが相応しい。掌をそっと子猫に向けると、小さな白銀の靄がふかふかと出てくる。それは掌の周辺で子猫の姿に戻った。
「……そうか、怖かったのか」
黒く硬い道を歩いていたら赤い乗用車がライトを煌々と照らし、驚いて止まってしまった子猫を鈍い音で刎ねる。少し進んで止まって戻って人間はまだ呼吸をしていた子猫の身体に唾を吐き、蹴って「車が汚れるだろうがっ、くそがっ!」と吐き捨てると吸いさしの火がついたタバコまで投げつけてきたらしい。ーー子猫は、鳴き声もあげることも出来ずに、どうしてそこまでされなければならないのかと悲しくなったと鳴いた。
「そうか……お前の命はそれまでだ……俺は夜見の王としてお前を歓迎しよう」
掌を翻すと子猫はにゃあと鳴く。彼の身体にまとわりつくように鼻を寄せて甘えてきた。
「貴方はまた……」
「なんだ、お前か…別に散歩をしていただけだ」
無表情に振り返える先に、暗闇であっても鮮やかな、光沢を放つ腰ほどにある髪を高く結わえ。大きなくりくりとした瞳をした青年が走り寄ってくる。目の前の主の為になら、どんなこともしようと誓った彼の部下のひとりだ。元々は鯱として生まれ、荒ぶる御霊になり果てていたところを救われた。
彼にとっては夜見としての役目でしかなく。ただ呼ぶ声に導かれたと言っていた。
「それは……」
「ああ、新しい同胞に迎えようと思ったのだ」
全体的に灰色がかった毛色で、首元から背中へ向かっての毛が薄い青色をした子猫。彼は子猫を抱くと臭いをひとつ嗅ぐ。子猫の身体に染み込む【憎悪】を嗅ぎ分けているのだ。それこそが彼の食事になる。子猫の身体から赤い紐を解くと、口を開いて吸い上げる。ズッとズッと吸い込むと子猫のカタチは揺らぎ、闇の中に弾けるように消えた。
「………………」
其処にはもおうなんの影も形も残っては居ない。側まで来ると彼は詰まらなそうに目を伏せた。
「憐れなことだ…」
誰にも省みられずに、時間を止めてしまった亡骸を前に彼は呟く。それは闇から不意に現れたような感じだろう。黒い髪は肩辺りまでの長さを無造作に流している。白い肌に生気らしい色合いは薄く、瞳も真っ黒で漆黒という出で立ちが相応しい。掌をそっと子猫に向けると、小さな白銀の靄がふかふかと出てくる。それは掌の周辺で子猫の姿に戻った。
「……そうか、怖かったのか」
黒く硬い道を歩いていたら赤い乗用車がライトを煌々と照らし、驚いて止まってしまった子猫を鈍い音で刎ねる。少し進んで止まって戻って人間はまだ呼吸をしていた子猫の身体に唾を吐き、蹴って「車が汚れるだろうがっ、くそがっ!」と吐き捨てると吸いさしの火がついたタバコまで投げつけてきたらしい。ーー子猫は、鳴き声もあげることも出来ずに、どうしてそこまでされなければならないのかと悲しくなったと鳴いた。
「そうか……お前の命はそれまでだ……俺は夜見の王としてお前を歓迎しよう」
掌を翻すと子猫はにゃあと鳴く。彼の身体にまとわりつくように鼻を寄せて甘えてきた。
「貴方はまた……」
「なんだ、お前か…別に散歩をしていただけだ」
無表情に振り返える先に、暗闇であっても鮮やかな、光沢を放つ腰ほどにある髪を高く結わえ。大きなくりくりとした瞳をした青年が走り寄ってくる。目の前の主の為になら、どんなこともしようと誓った彼の部下のひとりだ。元々は鯱として生まれ、荒ぶる御霊になり果てていたところを救われた。
彼にとっては夜見としての役目でしかなく。ただ呼ぶ声に導かれたと言っていた。
「それは……」
「ああ、新しい同胞に迎えようと思ったのだ」
全体的に灰色がかった毛色で、首元から背中へ向かっての毛が薄い青色をした子猫。彼は子猫を抱くと臭いをひとつ嗅ぐ。子猫の身体に染み込む【憎悪】を嗅ぎ分けているのだ。それこそが彼の食事になる。子猫の身体から赤い紐を解くと、口を開いて吸い上げる。ズッとズッと吸い込むと子猫のカタチは揺らぎ、闇の中に弾けるように消えた。
「………………」
其処にはもおうなんの影も形も残っては居ない。側まで来ると彼は詰まらなそうに目を伏せた。