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メビウス~無限∞回路

第7章 鳴き声(前編

スッと背筋を正す。彼の光彩のない瞳が月を見上げると、彼の前にギチギチと音を立てながら闇がその姿を露わにする。大きな靄は人が見るとその魂を吸い上げられそうな、濃度の高い闇であった。

「勇魚……」
「賜りました。……極上の馳走に変貌させましょう」
「あいかわらず…察知がよいな」

フッと唇が笑みを刻む。普段ほとんど動くこともない表情に、勇魚の頬が紅潮する。最初に出会ってから、どれぐらいの時間が過ぎたのか分からない。その頃から夜見の王はかわらずある。勇魚たち下級御霊からすれば夜見の王は跪き、頭を垂れて首を差し出しても惜しくないほどに惹かれて止まない。
夜見の王は同胞に対しては、有り余るほどの愛情を注ぐところがある。暗く漆黒に支配された世界で、狂気と魑魅魍魎に彩られた不気味な色彩を放つ黄泉比良坂。苦しみ、のたうつ同胞へ謳う昏き祝い。差し伸べられる手に縋り、一つの意図に捻りあがる。事切れる瞬時で決まる采配の果てに、夜見の王は囁くのだ。ーー我に委ねよ、と。

勇魚は緩く微笑みを浮かべ、気配ごと消える。それに合わせーー夜見の王の気配も闇に溶けた。



















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