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メビウス~無限∞回路

第2章 救いのない空を

 館の中に家族と執事が住む少し古びた洋館。
 今日は姉の誕生日祝いが盛大に行われることになった。
 ただ姉のプレゼントが決まらない。昔祖父母にもらった銀食器のことを思い出し、少年は急いで地下に取りにいく。
 地下に灯りをもって入り、探すと五分もしない内に目的のものを見つけた。
 地上へ上がる階段を、上った筈なのに、なぜか別の建物に出てしまい。少年は戸惑い、先ほど上ってきた筈の階段を探した。
 見つからない。―――怪奇な現象に、少年は困惑の表情で周囲を見渡した。

《此処…どこだろう…》

 銀食器を片手にレースの絹が、ふんだんに使われた贅沢な衣を纏う子供。
 足元から聞こえたうめき声に視線を向けた。

「ぅぅうう…」

 少年の足首を掴む、やせてかさかさした皮膚が纏わりついただけの骨。少年は一瞬で顔色を変え、その場から走り出した。
 軽く振り返った先には、病気で明日も知れない貧困に、喘ぐモノたちが確かについて来ていた。

 逃げて、逃げて―――更に迷い込んでいく。

 上にいくほどその建物の中では、病気は酷く死も間近に迫った人々が、目をギラギラと輝かせて立っていた。
 まるで幽鬼のように。
 少年は震える身体を自ら温めるように抱き、部屋の片隅で身を縮めて耐えている。
 どうしてこんな場所に出てしまったのか。
 自分は確かに上に戻る階段を上った筈なのに………。
 高くなる心音、恐怖に吹き出る嫌な汗と走った汗が混ざり外気に冷やされる。
 早く姉に、握りこんだ銀食器のスプーンとフォークを渡さしたい。
 焦る少年は扉の外から聞こえる音に、人々が探しているのを知る。
 追い詰められていった。

《どうしてこんな意地悪するの?》

 少年は恐怖感をいっぱいに階段を走り、見つかっては隠れてを繰り返していた。
 一刻も早く、館に戻るため。
 家族に会う為、抱きしめてもらうため。

『私達の苦しみも嘆きも知ろうとはしない彼らに天誅を―――』

 口々にのぼる声は、強い怨嗟だった。

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