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メビウス~無限∞回路

第2章 救いのない空を

 彼らはひとりひとりでは弱い生き物だが、目的を一つにして逃げる子供を追い駆ける力は、病気や貧困などの体力でも気力でもなかった。
 集団心理が目の前の少年を、獲物として捕らえていた。
 追い詰められた少年は、時計塔の中に逃げ込む。此処は最後の砦だ。
 上はもう無い。
 あるのは下が見える窓だけだったから。

「此処だ…」
「此処に居る…」
「出て来い…」

 扉が硬いもので叩かれる音。少年は高い音を立てて、今にも破壊されそうな扉と、窓の下を見て身をゆっくりと乗り出した。

 扉が開く間際に、風を切って地上に叩きつけられた小さな体。少年は両手に持った銀食器を落とし、探す余裕もなく逃げて落ちた事故でした。

 悲しい事故でした。

 少年は夢が途切れた同時に身体を起こし、両手に銀食器を持っていないことに気がついた。
 今日は姉の誕生日―――少年は寝台から降りてこっそりと地下へ潜っていく。



 同じことを繰り返し繰り返し、少年は幾度も同じ場面を繰り返す。
 少年は病や貧しさを知らなかった為に殺された一族で。あの惨劇の日―――少年は逃がされたものの地下で見つかり、追いかけられ時計塔から飛び降りてしまった。
 少年だけは知らず、何度も何度も繰り返し。こうして続けて生きているのだ。
 魂は安らかにならず、何度も恐怖感に追い詰められて、飛び降りてしまう。

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