妖魔滅伝・団右衛門!
第8章 八千代の想い
誰の目から見ても傲慢で不遜な団右衛門が、姿勢を正すと腰を深く折り曲げ、畳に頭を付けて頼み込む。付き合いがそれほど長くない八千代にも、それがどれだけ相手に譲歩した行為なのかは理解した。
「――何の話ですか? どうしてぼくが去らなきゃいけないんです。あの人が敵なら、あの人を捕まえるべきですよ。ぼくが消える道理が、どこにあるんですか」
八千代は団右衛門から目を逸らすと、短い溜め息を吐き出して言い捨てる。すると団右衛門は、すぐに顔を上げた。
「しらばっくれても無駄だ、八千代」
団右衛門の視線は、目を逸らしても体に突き刺さる。八千代は唇を噛み締め耐えるが、続く団右衛門の言葉には動揺するしかなかった。
「五十年前負けた鬼は、さまよい時を重ね、最終的には尾張の中村に辿り着いた。そこは後の関白である秀吉――藤吉郎も住む、平和な土地だった。そしてそこには、農民の土に汚れた手に躊躇わず触れる、清廉な魂の持ち主がいた」
「――っ!」
「関白様も、覚えていたな。その子は自分とも遊んでくれたと。しかしその子は姿を消した。鬼が見かけて目を付けたんだよ。今の嘉明と同じように、そいつを餌にしようってな」