妖魔滅伝・団右衛門!
第8章 八千代の想い
「ならば……儂の幸せはどこにある?」
団右衛門が顔を上げると、目の前の八千代は童の顔をしていなかった。容姿こそ幼いものの、表情は長い時に晒された傷を背負っている。
「鬼に攫われ、気が遠くなる程犯され、人としての体を破壊され……儂の記憶には、こびりついた鬼しかない! その儂が、人並みの幸せを望む事すら許されぬというのか!!」
叫ぶ八千代の口から覗くのは、尖った牙。頭からは鬼の角が生え、団右衛門を威圧する。しかし憤怒が燃ゆる瞳の深淵に、悲しみが揺れるのを団右衛門は見逃さなかった。
「八千代、あんたはただ鬼の道具だった訳じゃないだろ! 嘉明に惚れたのは、鬼も関係ないあんた自身の気持ちのはずだ! あんたが人と鬼の間で揺れてたのは、間違いないはずだ!」
鬼の手先だとしても、八千代は時々一貫していない行動を取っている。だからこそ団右衛門は、なかなか八千代に疑いを向けなかったのだ。
「初めてオレが鬼と争った時、あんたは鬼を刺してオレ達を助けた。その後倒れた嘉明を懸命に看病したのもあんただ。京で姿を消しながら、結局オレを殺しにはこなかった。あんたはまだ、人の心を持っているはずだろう」