妖魔滅伝・団右衛門!
第8章 八千代の想い
人生の楽しみをほとんど知らない内に攫われ、鬼の欲望のために地獄で生かされ続けた八千代は、哀れである。ようやく見つけた安息の地を自ら手放すのは、身を引き裂かれるより辛いだろう。だが団右衛門は、この無情な真実を広め、悪戯に悲しみを増やしたくはなかった。たとえそれが八千代に、より深い悲しみを与える事になっても。
「お願いだ、分かってくれ!! ここであんたが身を引けば、あんたはまだ人でいられるはずだ」
外見が完全に鬼と化した八千代は、団右衛門の言葉に牙を収め黙り込む。団右衛門はただひたすらに、八千代の良心を信じ祈った。
「……嘉明様を失うくらいなら、儂は鬼でいい! お前も鬼も皆殺しにして、嘉明様を儂だけのものとしてくれる!!」
鬼と化した八千代の鋭く伸びた爪が振り下ろされ、団右衛門の頬をかすり傷付ける。流れる鮮血は、拒絶の証。
「嘉明様を誑かし独占する憎き退魔師よ、儂より深い地獄に叩き落とし砕いてやろう!!」
もはや表情にも言葉にも、人である八千代は見つからない。団右衛門の頬に、血ではない透明な雫が伝った。