妖魔滅伝・団右衛門!
第8章 八千代の想い
厩に一番乗りで現れるのは、いつも太助であった。だが今日はその太助より早く、厩に人影があった。まだ日も昇りきらないうちに動く影に、太助は曲者かと構える。
「やあ、おはようございます太助殿」
金色の髪が印象的な大男。それは同じ馬番である悠久である。太助は今日に限って早い悠久に違和感を覚えるが、敵でないのなら邪魔にはならない。お辞儀を返すと、特に話す事もなく馬に向かい合った。
しかしそれは、悠久に腕を掴まれた事で遮られる。
「……なにか?」
微笑む悠久に眉をひそめながら、太助は一応訊ねてみた。
「太助殿は偉いですな。毎日こんなに早起きして、馬の世話をしているんですね」
「仕事ですから」
「そこまで熱中されるのは、馬が好きだからですか? それとも……嘉明様が好きだからでしょうか」
嘉明の名前を出すと、太助の冷めた表情に僅かな熱が走る。返事がなくとも答えは明らかで、悠久はさらに笑みを深めた。
「嘉明様がお好きという事は、下半身の経験はどうです? 小姓は主君を慰めるため、体の技術も求められますよね」