妖魔滅伝・団右衛門!
第8章 八千代の想い
「結界――破られた。一二三が一人、殺された。団ちゃん、早く行って……一二三は、後から追いかけるから」
結界を破られたとなれば、もはや一刻の猶予もない。団右衛門は頷くと、すぐに鬼の気配がする方向へと走り出した。
(関係ねぇ一般人まで守れず巻き込んで、八千代を殺して嘉明を奪われたんじゃ、立つ瀬がねぇ!! 嘉明だけは――何が何でも守らねぇと!)
団右衛門は森を掻き分け、風よりも速く駆ける。脇目も振らず、ただ一直線に嘉明の元へと向かった。
(お願いだ、間に合ってくれ!)
しかし大樹の下に辿り着いた団右衛門の目に入ったのは、傷付き倒れたトラともう一人の一二三だけ。争ったような跡は残されているが、鬼も、嘉明も、そして三人目の一二三もその場に姿はなかった。
嘉明は、力を持たない人間ながら健闘した。八代が悠久として潜入している間、嘉明が好んで吹いていた笛。それは団右衛門が加藤家を出て行く時に置いていった、鬼だけに力を発揮する破邪の笛だった。
結界に、妖虎。トラの制御に使っていた魔を制限する鈴に笛。嘉明自身が身に着けた武勇。団右衛門は直接嘉明のそばにいなくとも、嘉明を守っていたのだ。