妖魔滅伝・団右衛門!
第8章 八千代の想い
嘉明の護衛についていた一二三が隙を突き地面から八代に鈴をつけ、トラが牙を向く。その間力を削る嘉明の笛の音は、耳障りだった。
「……なるほど、これは厳しい。退魔師が援護に来るまで、持たなかったかもしれないな」
八代は片耳を塞ぎながら、くつくつ笑う。厳しいと言いながら、その表情は爛々としていた。
「以前の儂ならば――な」
八代は鈴を引きちぎるとトラを片手で鷲掴みにして、腹に爪を突き刺す。そして一二三を捕まえると、首に手を掛けた。
「今すぐその笛を止めろ! 止めなくともどの道嘉明は儂がさらうが、今止めれば犠牲が一人減るぞ。同じ運命を辿るなら、死人は少ない方が良いのではないか?」
八代は、嘉明が要求を飲まないはずがないと分かっていた。短い間だが、嘉明の人となりを直に確かめていたのだ。この戦況をひっくり返す術がもはやないと悟っている事も、犠牲を悪戯に増やす事を嫌うのも承知だった。
嘉明が腕を下ろそうとした瞬間、八代は嘉明に飛びつき口吸いに走る。
「んっ、はぁっ!!」
後を断たれた嘉明が考えるのは、敵の思いのままにされないよう自害する事だ。舌を噛まれない内に八代は鬼の毒で、嘉明の動きを封じた。