妖魔滅伝・団右衛門!
第2章 嘘つき団右衛門
「分かった、分かったよ! じゃあ今から毒抜きするから、一度下がれ。退魔師の秘法だから、覗くなよ。覗いて何かあったら、治らなくなるのは嘉明だからな」
「はい、宜しくお願いします」
八千代は深々とお辞儀をして、部屋を出ていく。とことん生真面目な八千代に、団右衛門は大きな溜め息を漏らした。
「ああ、なんか疲れた」
団右衛門は愚痴をこぼしながら札を取り出すと、嘉明の寝巻きの前をはだけさせ、胸――心臓のある位置に、札を貼る。そして手を組み経文を唱え、破邪の念を放った。
二人しかいない静かな空間に、波紋が走る。すると苦しげな吐息を漏らしていた嘉明の呼吸が、深く整い始めた。
「団、右衛門……か?」
そして長いまつげを湛えた瞳が開き、半ば虚ろだが団右衛門を見つめる。鬼にあれだけ毒されても、その瞳の輝きには一辺の曇りもなかった。
「ようやく目覚めたか。ったく、この馬鹿。気軽に外へ出るなって言っただろ」
団右衛門がたまらず文句をこぼすと、嘉明の眉間に皺が寄る。
「……気軽には出ていない。八千代を探すため、真剣に出たんだ」