妖魔滅伝・団右衛門!
第2章 嘘つき団右衛門
その言い分に、団右衛門は頭を抱える。そして嘉明の額を軽く叩くと、客分らしい態度などわきまえず説教を始めた。
「それで自分が死んだり捕まったら、元も子もないだろ。あんたに危害があれば、一番気に病むのは八千代本人なんだぞ? 家臣を大事にするのは結構だが、ならばなおさら、自分の身は大事にしろ」
嘉明はしばらく眉を寄せたまま考え込んでいたが、微笑みをこぼすと腕を伸ばし、団右衛門の右手を握る。
「……確かにお前の言う通りだ。道を教えるつもりが、教えられるとはな」
まだ高揚が残る頬は、色付き人の目を奪う。初めて目にした嘉明の微笑みは、清廉で、澄み渡る青空のようであった。
「感謝する。ありがとう、団右衛門」
「――っ」
団右衛門の頬に赤味が差すのも、無理はない事だった。加えて握られた手が温かくて、頭の天辺からつま先まで熱が広がる。ざわめきだした心臓が呼吸を乱し、団右衛門から言葉を奪った。
「……団右衛門?」
返事のない団右衛門を不思議に思い、嘉明は体を起こし顔を覗く。不意に近付く整った顔に、団右衛門の心臓はますます跳ねた。