妖魔滅伝・団右衛門!
第2章 嘘つき団右衛門
そして、団右衛門は目の前に美味しい餌をぶら下げられて、大人しく我慢出来る気性ではない。握られた手を引き嘉明を押し倒すと、覆い被さり顎を手に取った。
「何のつもりだ、団右衛門」
するとたちまち嘉明は表情を凍らせ、団右衛門を睨む。だが一度柔らかな笑みを見てしまった以上、その無愛想な顔すら可愛らしく見えてしまう。
「――いや、オレ様も色男だね。あんたが惚れるのは当然だが、これは困った」
「惚れた? 気でも触れたか」
「あんたの気持ちはよーく分かるが、殿様に手を出すのはまずい。だがそれじゃ、あんたも可哀想だろう」
嘉明は団右衛門を払おうと力を込めるが、弱った嘉明と健康な団右衛門では、力の差は歴然だ。両手首を取られ縫い付けられれば、成す術はなかった。
「あんた、早く体を治したくないか」
だが団右衛門の妄言が問い掛けに変われば、嘉明も抵抗を止める。返事がなくとも、団右衛門は答えを知っていた。
「鬼の精は毒、なら退魔師の精は何なのか知ってるか? 邪気を払い、防いでくれるお得な力があるんだよ」
「そんな話、聞いた事がない」
「そりゃないさ。退魔師の秘匿事項だからな」