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妖魔滅伝・団右衛門!

第2章 嘘つき団右衛門

 
 八千代は団右衛門の着物の端を掴み、頬を真っ赤に染め、瞳を潤ませて喜ぶ。その顔は周りの使用人をも惹きつけ、心を奪う美しさを放っていた。

「良かったな、八千代」

 嘉明を知らなければ、団右衛門は八千代に食指を伸ばしていたかもしれない。しかし心を満たす手段を得た今、八千代に対して湧いてくるのは、純粋な保護欲だった。

 二人は足早に、嘉明の寝所へ戻る。目を覚まし、疲れているが意識のはっきりした嘉明に八千代は泣いて喜び、胸に飛び込んで縋った。

「良かったです、嘉明様……!」

 美丈夫同士が身を寄せ、喜ぶ姿は絵になる。しかしそれも、未だ消えない鬼の気配がなければの話だ。喜び合うのはそこそこに、三人は状況の確認を始めた。

「ぼくが何か怖いな、って思ったのは、今から一週間くらい前です。嘉明様の身に何かあるような気がして、どうしたらいいか悩んでいました。その時――あの日の朝、嘉明様が出掛けた後お掃除していたら、声が聞こえたんです」

 あの日、とは、鬼に乗っ取られた日の事である。八千代は走る寒気に身を縮め、消え入りそうな声で続けた。
 

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