妖魔滅伝・団右衛門!
第2章 嘘つき団右衛門
「……団さん!」
すると、八千代が団右衛門の懐に飛び込み、大声を上げる。八千代の勢いで後ろに倒れそうになった団右衛門は、嘉明から手を離し床を押さえて体を支えた。
「ぼくにも、何か出来る事があったら言ってください! 囮でも何でも、嘉明様のためなら頑張りますから」
「ん、助かる。でも囮なんて危険な真似はさせないぞ? 嘉明が怒るだろうからな」
随分と仲の良さそうな二人に、嘉明は目を丸くする。そして口元を緩めると、嘉明は団右衛門に抱きつく八千代の頭を撫でた。
「お前が私以外の人間に懐くなんて珍しいな。しかし、良い傾向だ。そうやって交友関係を広げていって、立派な武士にならなければな」
「嘉明様……」
嘉明の微笑みは、八千代にとっても必殺であるらしい。八千代は頬を真っ赤に染めて目をとろけさせ、嘉明を穴が開く程見つめる。その目線が恋慕である事は、嘉明本人は気付いているか分からないが、団右衛門にはすぐ理解出来た。
(……なんだろう、胸が痛い)
八千代が喜んでいるのだから、八千代を気に入る団右衛門が気分を損ねる理由はない。だが、団右衛門は冷や水を浴びせられたように胸の内が冷め、気分も落ちていた。