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硝子の挿話

第7章 徒花

 ユウリヤが青ざめるのだが、サイティアは剣を両手で握り、ティアを振り返った。
 相手は全てが簡単に行くと思っていたらしい。しかし行為そのものを許さなかったのは、ティア自身だった。
「…ごめんなさい」
 腕を掴まれて、引っ張られる重力に任せて、全体重を乗せた肘で相手の鳩尾を打つ。
「なっ…!?」
 虚を突かれた男の手が離れると、ティアはしゃがんで、握った砂を首領の顔面に投げつけた。
 完全に束縛範囲が解けると、軽やかに身を翻し、二人の傍に駆け寄る。

「逃げます!」

 そのソツのない光景に、あっけに取られていたユウリヤの手を握り、サイティアの腕を引っ張り、理解出来ないで呆然とした刺客一向を残し、海岸から離れる為に走った。
 途中絡んでは纏わりつくドレスの感触に、ティアは走りながら裾をまくりあげ、髪を飾っていた樹液を固めて作った糸で膝上に絞りとめた。
「待ちやがれ!!」
 遅れはとったものの、まだ危機は過ぎ去って居なかった。
 すぐに気が付いて、サイティアは袋に入っていた起爆剤入りの瓶を、全てを後方に投げつけた。
 いくつもの爆音と、硝煙を後目に走り始め、三人は安全な場所に向かってひた走った。

 宛てもないような逃亡。

 ユウリヤは隣で、息さえ切らず走っているティアを見た。
 初めて見る身の軽さや、鮮やかさに少しばかり驚く。視線で問いかける言葉は分かっても今は答えている時ではない。あえてティアはそれに構わず走った。

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