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硝子の挿話

第9章 滄海

 サイティアがティアの家に引き取られたのは、とても幼い時分だった。
 まだティアもよちよち歩きの頃でとても長い時間を過ごしている。サイティアの姿が見えなければ、探して泣き出す姿もあって。それを愛しいと思う日々。
 逞しく成長するティアは、近くに住むひとつ年上の幼馴染タルマーノと一緒に、元気に砂浜を駆けていた。

「サイ兄さまぁ!お外いこっ!!」

 あまり外が好きではないサイティアにも毎日のように誘いをかけていた。
「タルマーノと遊んでこいよ」
「タルマーノは無理だもん!騎士になるんだって、学校行っちゃったもん!お暇嫌いっ!」
 行こう、行こうと裾を強く引っ張るから、捲し上げられた足が見えて恥ずかしくなる。
「ティアっ!!」
「行くの!お暇はティア嫌いなのぉ!!」
 他の例えば両親とか、タルマーノにだってこれほどの我が侭は言わないくせに。サイティアは溜息をついて、読みかけていた書を閉ざした。

「一緒する?」

 覗き込んでくる大きな瞳に、一瞬だけ腰を引いたものの。仕方ないと立ち上がるサイティアもティアに関してだけは表情を動かす。
 ティアの前でだけは無表情で通せない。
 小さな手を繋ぎ、外へ出て石垣を降りていくと、目前に閉ざすもののない大海原があった。

「今日はとてもいいお天気なの!沖まで行けるぐらい」

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