テキストサイズ

硝子の挿話

第9章 滄海

 両手を広げて笑う無邪気さに、サイティアは額を押さえて呻く。どうしてこうも毎回突飛もないことを言い出すのか。
「ティア…沖へは泳いでいく途中にへばるし、舟がないから無理だよ」
 航海術を現在進行形で学んでいるサイティアだが、ティアは意味さえもわかっていない。満面に笑みを浮かべた。
「必要ないの、だってお魚さんにも亀さんにも方向聞けば早いもの!」
「それはティアだけだよ…」
「そんなことはないのね、きっとお耳閉じているから聞こえないだけなのだわ!」
 むんと腰に手を当てて仰け反る。どうやら怒ったぞ!と教えているようだが、ティアの表情はどっちかというと困った顔をしているだけだ。
 この年頃の少女はどこも同じなのだろうか。ほっといたら幾らでも喋り続ける。サイティアは半分諦めたみたいに、そうだねと返すと海に突き飛ばされた。

 ばしゃ!顔から海水を浴びて振り返ると、何故か突き飛ばされたサイティアよりも涙ぐんでいる。
「………」
 空に走り出す稲妻に、顔面がさらに青くなる。この頃のティアは情緒が不安定ということもなかったが、今よりももっと電波が出ていたのではないだろうか。
 サイティアは思わず、全力で叫んでいた。

「ごめん!俺が悪かったから!!」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ