硝子の挿話
第10章 交錯
今回は突然の来訪であったが、話自体は断られることがないと思っていた。
この件に関しては、非公式であり正式な形はなさない。流石に今夜は少し不躾な真似をしたとハクレイは改めて苦笑した。
「神殿に居られるなら、本当に明日にしようと思っていたのです………」
「いいのですよ、私はこうして頼られること好きですし。私自身を訪ねて下さるのは、今はハクレイ様だけですから」
にっこりと笑うと、小さな白い花の群れが風に揺れるみたいな、淡くも清楚さが可愛いとハクレイは思ってしまう。満開ではなく六分咲きぐらいの花。
「それでは私も執務がありますので、今日はこの辺りで失礼します………お会いできてよかった」
解れた前髪を指先で撫で、ハクレイはティアの額に口付けを残し、自らが乗ってきた車に乗る。軽く手を振って見送った。
「私も、お会いできて嬉しかったです」
声はもう届かない。車はゆっくりと発進すると、静かに夜のしじまへと消えていく。ティアは眺め、空を見上げた。
大きな月は澄んでいて、これからも世界は、前途洋々と広がっているのだと。
信じさせて欲しいのだと、遠く遠くを眺めて呟いた。
この件に関しては、非公式であり正式な形はなさない。流石に今夜は少し不躾な真似をしたとハクレイは改めて苦笑した。
「神殿に居られるなら、本当に明日にしようと思っていたのです………」
「いいのですよ、私はこうして頼られること好きですし。私自身を訪ねて下さるのは、今はハクレイ様だけですから」
にっこりと笑うと、小さな白い花の群れが風に揺れるみたいな、淡くも清楚さが可愛いとハクレイは思ってしまう。満開ではなく六分咲きぐらいの花。
「それでは私も執務がありますので、今日はこの辺りで失礼します………お会いできてよかった」
解れた前髪を指先で撫で、ハクレイはティアの額に口付けを残し、自らが乗ってきた車に乗る。軽く手を振って見送った。
「私も、お会いできて嬉しかったです」
声はもう届かない。車はゆっくりと発進すると、静かに夜のしじまへと消えていく。ティアは眺め、空を見上げた。
大きな月は澄んでいて、これからも世界は、前途洋々と広がっているのだと。
信じさせて欲しいのだと、遠く遠くを眺めて呟いた。