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硝子の挿話

第10章 交錯

「星祭の日、確かにお約束します。夜はいつものようにこっそりと提言の場を作りますから」
 前回の星祭の日、皆でこの場所で顔を突き合わせて、色々と話し合った。
 それはティアが常に求め、得ることが叶わなかった他人との触れ合い。
 とても胸を満たした―――優しい思い出だ。また叶うことが出来る。自分が自分のままで触れ合える他人(ひと)を望むのはヒトとして性なのかも知れない。
「お役目、大変でしょうにこの場所にご足労させてしまって………」
 小さな身体を更に小さく畳んで頭を下げるティアを、ハクレイは止めた。
「いいえ。私は三人の神子を渡ることに苦痛はないですし、ユアの力になれることなら何だってしますよ」
 どんなことだって平気だと、本心の言葉だとティアにも分かる。二人の間にある空気は、張り詰めているのに、深い哀切と痛み。それらを覆う愛しさがあった。
「一口、いかがですか?」
 役目を無事に果たし、ようやく人心地がついたと表情を緩めたハクレイに、ティアは筒に入れていたレモンを切って漬けている水を渡す。

「お喉、乾きますでしょ?お持ち帰りしてくださいな」
「いいのですか?」
「はい。私もう一本用意してますので、お持ち帰りして下さったら嬉しいです」

「ありがとうございます」
 受け取って一口飲むと、すっきりとした喉越しがすとんと腹に落ちた。

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