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硝子の挿話

第11章 予感

 ハクレイが去ってしまった場所は、寂しさが広がりを滲ませていた。
 案内を終えたサイティアも、此処が見える場所で待機している可能性もある。ただ目に見える範囲に影がない。
「居て下さっても良かったのに…」
 呟いたがそれは甘えで、この場所がどれだけ安全なのかは、幾度も確かめて知っている。もしかしたら、サイティア自身も騎士としての仕事があって、そっちに戻っている可能性もあった。
 巫たちが交代に、朝の到来を祈る時間。独りでティアは真っ暗な海の前にいた。
 闇が全てを支配し、波さえも昼とは違う恐ろしさを漂わせている。自然の素顔を前に、座るでもなく、ただぼんやりと見ていた。
 日が昇るまでの僅かな時間。
 それだけの自由。この海の前なら誰よりも自由で居られる。
「必ずどんな闇も明ける。空に太陽が昇るように、光が闇を切り裂いてくれる…」
 赤道直下の朝は、前触れがなく突然訪れる。朝の透明で激しい光が愛しい。昇る姿はこの結界が敷かれた海岸からは見れないのだけれど。

 そんなことは構わない。

 独りで見るにはあまりにも大きな感動だと思うから、ティアの脳裏にひとりの姿。描く面影が次第に揺れる。一番逢いたいヒトの面影を、この闇の中に無意識で探していた。

「ユウリヤ」

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