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硝子の挿話

第11章 予感

 会いたい。とても会いたい。今すぐにでも会いたい。―――叶わないことは分かっているし、叶わないでもいいという気持ちも、少しだけ胸にあった。
 声に出すには切なくて、愛しさに構ってほしいと思う心を、ティアは恋慕う相手の幻想へ、両手を広げて微笑んだ。
「何故、会いたいのだろう…」
 サイティアとも、タルマーノとも違う。会いたいと思う気持ちは似ているのに、どこかが違うことが不思議だった。

「惹かれていくたびに怖くなるのは、私だけなのかしら?私も能力(ちから)が失われる日が来るのかしら?………だから、ユラちゃんに?」

 考えなければならないことが、霧散しては凝固し、融解していく思考。まとまりを失っていく感覚にティアは溜息に変わっていた。
「私が完全に能力を失えば、ユラちゃんに矛先がいってしまう訳ですよね」
 単純な問題だが、簡単に済ませていい問題ではない。ユラは生まれつき身体が弱く、また生の秒針を刻み生きているのだ。
 兄であるユアや、二人の幼馴染であるハクレイはとても胸を痛めていた。
「私も前司祭様がして下さったように、守りたいです……」
 沢山の命がティアの両肩に乗っている。現司祭は前司祭の子息であるのに、彼以上に大人しく事なかれ主義でいた。
 神官は表立ってティアには逆らえないが、ユラがもし神子として、この地に降りたとしたら勝てない。
「私だけではない。この先の神子たちの為にも頑張らなければ…」

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