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硝子の挿話

第13章 約束

 サイティアとは一度も喧嘩をしたことがないのは、サイティアが異性だということ、年の差もある。それが分かっていても、兄弟間とはいえども。―――痛い思いを目の前で見るのは、素直な気持ちで嫌だった。
「喧嘩ではないですよ、教育の一環です」
「一環だって~」
 輪唱するように戻ってきた返事に、ティアはそうかと胸を撫で下ろそうとして、はっと気がついた。

「いやいやいや、やはり駄目なんですよ!駄目です!」

 もはやティアも必死だ。此処に来てどうして仲裁をしているのだろうと、意識の向こう側で後ほど気が付くことになる。
「とりあえず100を向こう側で数えて下さい」
「顔が変形するのは勘弁!!」
「変形させられる腕力が私にある訳ないだろうっ!」
 あのサイバスがこんな感じになるなんて、兄弟の縁と言うか血というか、そういうのは凄い。とかまで考えてしまうティア。
「えっと…暴力は反対ですからね」
 扉に向かって両手で口元を包むみたいにして、一言そういうと本当に100を数えに、向こう側へと去っていく。何か声がしていたが遠くて聞こえない。
 70辺りを数えている頃に、扉はようやく開けられ、二人と顔を会わせることが出来た。
 トーボイの上から下まで見て、サイバスの上から下まで見る。二人が殴りあいの喧嘩にまでは発展しなかったことに、心の奥から安堵した。

「改めて始めまして、サイバスの本当は従兄弟なんだけど…トーボイって、…です」

 膝の裏を蹴られたらしい。痛いと訴えるトーボイを後ろに戻し、こほんと一つ咳払いして目の前にサイバスが立った。




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