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硝子の挿話

第13章 約束

 繰り返す告白に、ティアはただうなずいて返す。
 時間は容赦なく、夕暮れに近づいていた。
 茜に染まりだした空に、伸びる影。

 鋭い、想いが弧を描く視線。

 少し掌が冷たくなっていた。
 極度に緊張して、怯えているのがユウリヤにも分かる。時々この危うさが、ユウリヤは心配だ。純真であるが故に使命を胸に抱き、神秘性に囚われる神子という姿。時に守りたいとは逆の、こなごなに壊してしまいたい感情をユウリヤに与えた。
 衝動の振り子は常に動いている。向けられる表情ひとつで、簡単に傾きを変えてしまう揺らぎ。
 二つの反りあった感情は、痛みと切なさ。愛しさと喜びから生まれて、沈む。
 リリティアに戻っているティアは、遠くて側に居ても体温を感じられない。

「行こう…」

 足を止めたのはユウリヤだったが、側に居るのに遠い肩を抱いて歩き出す。連行するような気持ちで、ユウリヤは混濁している言葉の群れを、沈黙で殺していた。
 元の場所に戻ってくると、ティアにまだ迎えが到着していない。周囲に人が居ないか視線を彷徨わせた。
「?」
「ありがとう、なのです…」
 そのまま爪先立ちになり、ユウリヤの肩に両手を添えるようにつかまって、頬にそっと唇を押し当てた。
「……」
 その後。いつものように、はにかんだ笑みを見せると、そのまま迎えが止まる位置まで走っていく。
 どうすれば喜んでもらえるか、必死に考えて行動したのだとティアの背後に幻想で見える汗。

「…女って魔性だな…」

 感慨深く呟き、唇が触れた箇所を指先で軽くなぞる。頬に受けたたった一つのキスで、まるで霧が晴れる。ユウリヤの中の混濁が霧散した。
 壊したい衝動に、動いていた針さえ、守りたいの方角に一気に傾ける力が、ティアの一番神秘だとユウリヤは苦笑しつつ、頬が赤く染まるのを感じた。

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