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硝子の挿話

第13章 約束

 立ち止まるユウリヤが、繋いだ手を引き寄せる。瞼に、軽く触れる程度の口付け。ティアは瞳を閉じて受けた。
 昨日と今日だけで何度、唇に触れただろう。恥かしいのに嬉しくて、離れる瞬間がほんの少し切ない。





「まだ…時間が残ってます…から…もう少し…」
 老獪な神官に囲まれる。まるで何かの祭儀で、奉られる贄(にえ)になる恐怖。それでも向かわなければならないのに、怖いなんて口に出せない。
 少しだけ、ほんの少しだけでいい―――ひっそりとユウリヤの体温を求めた。
 こうして体温を求めて、離れずにいるなら、幾らだって抱き寄せて、暫しの安堵を与えたい。

 だから優しく、背中を撫でる。

「…愛している」
 耳元で囁いて、繰り返し呟く。なんの力もない言葉かも知れない。けれど与えてもらった以上を与えたいと思うのは、何故だろうかと考えて微笑した。

「愛している」

 全てを抱えて、痛い姿を見なくて済むなら、何だってするし、出来ると思いたい。この想いは、どうすれば伝わるか解らない。このまま―――手を繋いで二人。

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