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硝子の挿話

第14章 明言

 青銅で造られた鏡を前にティアは鎮座していた。
 これから始まる戦いを前に、強い緊張と不安が、胸の中で暴れている。押さえようと足掻けば、―――嘲笑う。身体が意識もしていないのに震えた。
 ぐっと拳を固めて、鏡に映る自分と向かい合う。

「静まって、音…っ」

 独りで立ち向かう訳ではない。そうと分かっているのに、あの向けられる爬虫類に似た、感情のない瞳が、青銅鏡にぼんやりと幻を作り出すから瞳を背けた。
 背けても反らしても、これからその群れの前に、姿を現して自分の役目をまっとうしなければならない。サイバスが試験してくれていた政策を、全体的に出来る所から広げていく。

「逃げても始まらないです…私はこの宮の主として、前司祭様に頂いた愛情を、この土地に還さなければならないのですから」

 既に禊(みそぎ)は終えて、徐々に集い来る神官たちの足音が幻聴で聞こえる。
 問われる内容は分かっているし、それに関する試験調査報告書は、この間には届いていたから、忘れないように何度も読み直した。
「大丈夫…、大丈夫……」
 上滑りする言葉を、重ねて吐き出す。平常心で向き合わなければならない時が、あるのだとすれば、それは今をおいてない。
 今日の舞台を一度も降りることなく、目を閉じることなく立つこと。
 揺るがない意思を示すこと。
 向かい風に飛ばされないように、しっかりと足につけること。
 他にもあるかも知れないが、今日の評議が全ての始まりになる。それを切実に考えて、言葉は慎重に選ばなければならない。

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