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硝子の挿話

第15章 暗夜

「??」
 周囲の巫達を見るが、彼女達はいつも通りで何も変化はない。右からも左からも聞こえる。耳鳴りかと納得した。

「どうか、されましたか?」

 衣装を着替えた後は髪を結い上げたりする。ヒリッシュは手先が器用なこともあり、あの次の日から合間を縫って髪型をつくってもらっていた。
「何か、耳鳴りがするんですよね…」
 高くキーンという音に変わって、ますますティアの表情はしかまった。
「耳鳴りですか?」
「ええ、キーンっていう金属か、硝子が響く音に似ている感じなんですけど………」
 なれない耳鳴りが耳障りだと、表情一杯に現れているティアの髪に、飾りをつけながらヒリッシュは苦笑する。
「ここ暫く忙しくて睡眠不足なのかも知れませんね」
「そうなんですか?」
「はい、終わりました……このまま、少し待っていて下さいますか?」
 言うなり返事を待たずに、ヒリッシュは出て行く。扉を眺めながら耳を押さえて離してみるが、あまり変わらない。溜息が出そうになったとき、ヒリッシュは二枚の濡れた布を、持って戻ってきた。
「これを耳に当てて下さい」
「…治りますか?」
「少しは楽になると思います」
 言われた通り両耳に一枚ずつ当てる。ほんわりとした温かさがじんわりと広がる。
「もう少し耳を覆うように…そうです」
 随分と詳しいとティアが思っていると、ヒリッシュはにこりと笑いほつれた髪を手直ししてくれた。
「医師の家系だったんです」
 過去形で呟かれた一言に、ヒリッシュにも何か辛く、重い気持ちが横たわっている。そう感じたが深くは聞かない。聞いて欲しいと相手が言うまでは、聞かないのはティアなりの付き合い方の規則だ。
「どうです?」
 暫くの間していたせいか、先ほどみたいな音は少しは消えた。

「ありがとう、少し…緩和されたみたいです」

 耳鳴りは寝不足や疲れから起きることが多く。休息を求めている証だとヒリッシュは言った。
 首などに暖めるのも効果的だというのだが、今日の衣装はどちらかというと開放的に仕上げられていた。
「お役にたてたなら嬉しいです。用意も済みましたし、ご挨拶などありましょう…お供致します」

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