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硝子の挿話

第17章 漆黒

 うなずいて立ち上がった時に、恐れていた最悪の惨劇が幕を上げてしまった。
 誰ももう、止められない大地の怒りは、前触れ無く叩きつけるみたいだった。

 終焉を告げる時の鐘は、突然壊れた音を奏で出す。

 神罰は、祭り後半を迎える夕暮れ。地の底から突き上げられる衝撃と、膨大な地響きが鳴り響く。縦に強く揺さぶられた。
「うわぁ!!」
「ぎゃっ!」
 水耀宮は太陽宮ほどの強度はない。勢いで柱にひび割れが生まれ、次の瞬間には亀裂が入った。
 崩れ始めた金属の柱から、少しでも身を守る為に、外に飛び出そうとする人の群れ。
 ティアは天上を見上げて、呆然としてしまう。虚無が全身に圧し掛かったのだ。

「ティア!」

 出入り口は錯乱する人々が、押し掛け、倒れるモノを踏みつけ、我先を競う。
 ティアはその強い揺れに、下半身の力がごっそりと奪われてしまった。
 動けない視界の端で捕らえた映像はとてもゆっくりと流れ出す。

「きゃーっ!」

 軋む床が盛り上がり、ぱっくりと下から開く。悪夢のような、現実が展開を始めていた。
「ティアっ!」
 呆然と座りこんでいるティアの側に、いつの間に来たのだろう。ユウリヤが楽器を捨て駆け寄る。
 側では身重のサミアをかばうカラが、床と天井を眺めて見つめていた。
 恐怖で空白になりかけていたが、自分の立場をティアは思い出す。出口に殺到する人々を、外へと急がす兵士や騎士、衛兵たちの姿。

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