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硝子の挿話

第17章 漆黒



 この場所に伝説の大陸があった。





 文明の欠片たちが、ゆれる波間を漂う。
 あれから海は、一昼夜をかけて荒れ狂った。
 全てを静寂に飲み干しながら。
 大きな茜色の太陽の下、豊富な資源を持つ大地。自然は優美に映え、動物たちは森の中で暮していた。

 四季は咲き綻び、海は子守歌を奏でていた。
 月に安らぎを求め、多くの命が誕生する。
 幾つもの恋が生まれ、散っていった。

 誤解をはらみ、嘘を重ね。

 愛し合い、反り合い。
 重ねた月日―――。
 人は進化を遂げながら、衰退へ歩み、滅びへとたどり着いてしまった。

 求めていたのは、誰しも原始の幸福である筈だったのに。

 虚栄と、疑心が絡まりあって生まれたのは、惨劇のカタストロフィー。
 幸福はけして、その目に映るものでなく。
 心で感じるものだと、忘れ去った結末だった。
 後悔はいつの日か反省に変わるのだろうか。

 誰にもわからない。

 時、同じくして滅んだ大陸も、自らの過ちを、受け入れた結果だったのかもしれない。
 太陽は変わらず、この星を照らし続けている。
 しかしそれは永久でなく、不変でもないことを人間は知らなくてはならない。
 文明を築き、その姿をひっそりと隠す。

 アトランティスは、膨大な財産と知恵を、命の生まれた海に返した。―――






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