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硝子の挿話

第19章 短編~現世編 /晴れた空の下で

 瞳に映る青は遠く、煌く輝きに彩られ映えている。同じ空など、ひとつもないのに―――同じに見えてしまう視界。果てを描き、永遠を見た空の青。



 千尋は初夏に近い空を見上げる。この下では幾つもの滅びと再生を果たしてきた宇宙(そら)。雲が一筋もない快晴と呼ぶに相応しい空は、今日もいつもと同じに見えるほど、雀が鳴きながら駆けていた。
 遠い日にこの空を見上げたときには、鈍い灰色に見えていて、壊れていくだけの世界を演出していたことを思い出す。

「空は大きく遠いのに……こんな側に感じれることがあるなんて不思議ですね」

 今日は祝日ということもあって、家では長女の真夜が掃除を開始している。千尋は手伝うつもりだったのだが、この間手に怪我を負ったこともあり、家で飼っているペットを見とくようにと次男の真昼に言われ、マンションにある広場へとやってきた。
 芝生があり、家で飼っている亀と小鳥を連れて外へと出てきたのだが、小鳥は千尋の肩からは離れずに日向ぼっこをしていた。

「千尋ねぇちゃん…っ!」

 その時、聞き慣れた嬉しそうな声と一緒に駆け寄ってきた相手を見て、千尋は素直に驚いた。
 母方の従兄弟でもある江藤家の長男の由紀に手を引かれた唯が走ってくる。

「どうしたのですか?びっくりしました…」

 立ち上がる千尋に由紀が歩み寄ってくると、繋いでいた手を解き。唯が千尋に抱きついてきた。

「こんにちわ! 小鳥さんも…こんにちわ」

 とても礼儀正しい唯はまだ10歳になったばかりで、一礼した後手を伸ばすので、千尋は笑みを浮かべ、小鳥を唯の肩へと置いてみた。

「可愛いーーー」

 大人しい小鳥は唯の肩で、小首を傾げている。対象物をよく見ようとするときの仕草ではあるのだが、それがまた愛らしく瞳に映るのだ。
「どうしたんですか? 由紀さんが来られてるなら、真昼お兄ちゃん達喜びますよ」
「さっき連絡したら、ここに千尋がいるって真昼兄に聞いてさ…掃除が終わるまで此処に居てくれって」
 くすっと笑いかける由紀に、千尋も微笑して隣を指差す。言われるまでもなく、ゆったりとした仕草で由紀が腰を下ろすと、亀がよたよたと向こうへと歩き出した。

「唯、亀さんの後をついて行ってあげて」

 柔らかい声で言うと唯も小さく頷いて、後へと続いて歩いていく。

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