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硝子の挿話

第19章 短編~現世編 /晴れた空の下で

 頷いて手をポンと叩く千尋だが、ますます謎は混迷していくようである。頭上に幾つモノ『?』を浮かべた千尋だった。

「偶然、女の子だって知ったんだ」

 小さく笑って言った由紀は、遠い空へ想いを描くような表情で呟いた。
 本当に、とても好きなのだろうことは、その視線の柔らかさでも十分に伝わる。

「この詳しい部分は、千遼にも真昼兄にも秘密で…」
「?」 
「あの二人に知られると潰されそうな気がしてね」

 確かに二人とも、ちゃかしたり何だりで潰しそうな気がする。
 素直にこくこくと頷く千尋に、由紀は照れたように笑んだ。


 掃除終了のメールが来るころには、亀は我がもの顔で歩きまわり、後を追う唯は楽しそうな声で笑っている。小鳥は既に千尋の肩に戻って羽を休ませていた。
 この辺りにはノラ猫が居ないので、こういう真似が出来るが。実際にしているのは千尋ぐらいであろう。由紀は肩で千尋の髪にじゃれつく小鳥を撫でた。

「いつ見ても本当に不思議な光景だよねぇ…」
「何がです?」

 いや、その野放しの状態が既に……と言いたい由紀であったが、千尋の周囲に広がるなんとも言えない癒しの空気に感化され、言葉が喉を出なかった。
 快晴の空の下、こうしてのんびりとした気持ちで過ごすのは、とても楽しいし癒される。日常の喧騒から離れた静かさが、此処に広がっていた。
 勿論、喧騒がまったくないわけではなかったが。それでも静かな空気に触れて沈静化する何かを感じた。

「じゃあ、戻りましょうか?」
「そうだね…唯、亀さん連れて戻っておいで」

「はーいっ」

 元気よく返事した唯が、両手で亀を抱いて戻ってくると、三人並んでマンションの入口へと入っていく。

「ねぇ、千尋だったら…何を貰ったら嬉しい?」

 唐突に聞かれた内容に、一瞬だけきょとんとしたものの。千尋は顎に人差し指を置いて考えた。

「……私、なら………なんでも嬉しいですけど…そうですね、趣味関係の物なら喜ばれるんじゃないですか?」

 ぱっと花を咲かすように笑って由紀を見る。すると困った顔で由紀は目線を反らし、瞬きをした後に一言だけ言った。


「バイクとプロレス…」


 
おわり

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