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硝子の挿話

第21章 繋いだ手

 伸ばした指先に力がこもらないで、解かれてしまった錯覚が胸を押し上げる。ティアは側にいる彼を薄い視界の端で捕らえた。



どうか彼と共に
居れる時間を
一瞬でも長く
とどめて欲しい



 祈りだった。
 純粋な祈りを捧げるように、ティアはユウリヤの手を探した。
 指先に触れる何かは熱く、ティアはぼんやりとした視界を無理やりこじ開ける。そこに彼の存在を覚えて、小さく笑いかけた。

「此処にいるから…」

 耳元で囁く声は彼の声(もの)で、それだけで胸が安らぐ。眠りが側にあって、もどかしいと思うのは初めてだった。


「ずっと……居て…」


 一生なんて言わないから、目が覚めるまででいいからと握った指先で伝える。何度も解けそうになって、掴む指先と、冷たく凍えていく肌をユウリヤは愛しさで撫でる。

 こんな時になって、初めて分かったこと―――。

 誰でもなく。
 代わりでもなく愛した女だった。
 ユウリヤは北の空で尚も噴煙を上げている黒い空を見ていた。
 刻一刻と終焉が忍び寄り、力尽きるまでここで見届けることが、神から与えられた役目だとユウリヤは思っていた。
 間違いだらけを繰り返してきた歴史に、終止符を打つ時、得られるものは安らぎであってほしい。

「眠ったままで聞いて欲しい…」

 安らぎを覚えた胸と、もうこの腕を放さなくていい安堵と悦び。慈しんで大切にしたいと同じ強さで壊したいとも思ったティアの横顔。

 小さな旋律を己が胸で刻みながら、ユウリヤは静かに謡いだした。在るのは唸りと轟音とそして壊滅的な音だけだったが、それでもユウリヤ謡った。

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