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硝子の挿話

第28章 埋没した色彩

生きているコトは『罪』なんですか――?


辛さをまとってハクレイは気だるく辛い体を起こす。昨日も散々な夜を過ごし、この夜が明けるのを誰よりも強く願っていた。
「くそったれ…」
小さな幼い頃は確かな幸せがあったのに。―――なんと遠い思い出だろう。あれからまだ四年しか経っていないのに、抱きしめてくれる父親も母親もこの写し世の何処にも存在していない。寄宿に住まうのは騎士団への編入が決まった日からだったが、それでも休みに帰るべき家がないという事実は辛い。
「子供なんか宿されてたまるかよ!」
きっと前を睨み立ち上がると、机の下に隠している薬を口に入れ苦さも水で流す。口元を荒く拭うと、短く刈りたてた髪を掴み膝を抱えて溜息をついた。
「…くそっ」
思い出は朝が一番悲しかった。
夢で追いかける家族の影は、朝陽に融けて消えていく。どれだけ追いかけたとしても、この身体が死ぬまで追いつくことはないのだから。朝、涙に濡れて目が覚めては、今此処にある自分が夢の世界で、眠っている間にいる世界が本当の世界じゃないかと思ってしまう。
駆け込んで家に入ると、足が不自由な父親であるアイルが苦笑して「おかえり」と言いながら抱きしめてくれて、母親のユノは小言と一緒に家の手伝いをしろと怒る。あの頃はそんな家が時々面倒で、自分の部屋へと駆け込んでいくこともあったが。


今ならばしない。

父親に抱きしめられたら、頬を寄せて瞳を閉じて安心するし。母親のお小言に軽く「ごめん」って返して、幾らだって家の手伝いをする。どんなに怒られても生きていてくれるなら、なんだってしたいし約束だって破らない。けれどどれだけ切実に願っても、それだけは誰も何も叶えてはくれないのだ。
悲しくて切なくて、痛くて―――でも、生きていく理由がある限りは生きていくって決めたのもまた自分の意思だった。


「…ユアに会いたいな…」

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