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硝子の挿話

第3章 螺旋

 空が白みだし、闇に支配された世界はあけていく。強い光を放つ朝陽が昇る位置を確認する為に設けられた小窓を通った。
 これで昨日からの跨ぎ仕事は終わり、ティアは眠ることを許される。確認もそこそこに疲れからか、外鍵しかない室の扉を、開けて入ってくる衛兵の前でも、無防備に眠りを求めてしまうことが多い。
 今も既に瞼は閉じられ、大理石を敷き詰められた祭壇で、凭れながらすやすやと眠り始めていた。
 衛兵は静かに側までくると、今だ幼さの残る小さな身体を軽く抱き上げる。うつつに風に揺られ、密かな光を宿す瞳は開かれた。

「誰…?」
「久しぶり…ティア」

 独特の低く甘い声が耳朶を擽る。水耀宮でたった一人だけ使うリリティアの呼び方。ティアの眠りも驚く早さで簡単に弾けた。
「サイ兄さま!」
 従兄弟で五つほど年上のサイティア。赤子の時に両親を流行り病で失い、ティアの両親に引き取られ、共に育ち、現在は唯一残されたティアの家族。
「ただいま」
 そう言いながら笑いかけたサイティアは、ティアの頬に唇を軽く落とし触れた。
 しばらく会わない間に、一段と逞しくなった兄の姿に、ティアは心底嬉しいと抱きついた。
 よく八方塞がりになっては落ち込んでいるティアにとっては、唯一無二の味方だ。
 一ヶ月ほど前に、遠くへ使いに出た兄の帰還は、寂しさを堪えていたティアにはとても嬉しかった。
 ティアは気楽さと嬉しさに、昨日出逢ったばかりのユウリヤの事を話す。何気なくみるサイティアの瞳には、緑が艶やかに輝いて見えた。
「暫くは居れるのですか?」
「星祭まではいるよ…」
 話しながら抱きしめてくれる腕の温かさに、安堵と包まれる安らぎに。再びうつらうつらするティアを、サイティアは苦笑のような微笑をそっと忍ばせて膝の上に下ろした。


「…今はゆっくりとおやすみ…」


 もう夢の世界へと旅立った後だろうティアの頭を撫でながら、微笑してその眠りを見守った。

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