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硝子の挿話

第4章 蜜月

 翌日に二人はもう一度出逢い、彼との関係は微妙なかたちで、こっそりと隠れて始まった。
 神子は人と恋仲になってはならない―――掟であったが、想いを寄せる自由は取り上げられたくない。ティアは禁圧の場所で胸に覚えた情熱を綴り始めた。
 ユウリヤとは他愛無い話で、素性に関することなどの詮索系は一切なく、ただ波の音を聞いている。さざ波が夕陽を反射し、溶けるように弾かれていく音をゆるやかに受ける。心地はまるで耳に優しい音楽を奏でている様だと思った。
 隣には寄り添う影。黒髪を無造作にかきあげ、視線は強く―――遠きを眺めている。隣にいてさえ、ユウリヤは暗い想いを、水平線の彼方に合わせていた。

「何か、奏でて下さい」

 大まかな素性は彼自身が語った部分だけ知っている。彼は楽師の流れだということ。以前は月空宮の辺りに居たということだけは語ってくれた。
 あの出会いからそろそろ半月になろうとしている。少なくとも彼の存在は今のところはバレて居ない。勿論、ばれてしまえば容赦ない別離が用意されているからで。一刻と一緒に居れはしないのだけれど。
「聞きたがりだな…」
 苦笑しながら振り返る眼差しが柔らかくなる。それなりに穏やかな流れを二人は持っていた。
「で?どういうのが好み?」
 髪は毎日結い上げられている。飾りの紫水晶の髪留めをそっと外した。
「私は…海、風、…優しい唄が好きです」
 軽くうつ向いて、呟くように言葉にする。

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