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硝子の挿話

第5章 白夜

 太陽宮は工業に力を入れている場所で、ユウリヤは工業地帯から離れた小さな農村の集落で誕生した。
 神殿と深い関係を持つ役人で、厳格な性格をしている父と、優しいが強い母。二つ違いでしっかりした………けれど優しい姉との四人家族で暮らしていた。
 当時既に姉は、神子や巫と呼ぶに相応しい才があったらしく、よく父が連れては神殿へと上がっていた。
 中流のごく普通よりは若干、余裕のある暮らしの中で、ユウリヤは教養という名前で習っていた楽器にいつしか夢中になったことで父の勘気を買った。
 皆が寝静まった深夜。こっそりと家を出て、楽を教えてくれた師の下を訪れて愚痴る。

「父は俺の話など聞きはしない。全ては自分が正しいと信じていて、頭ごなしに怒鳴るだけだ…」
「話し合いは難航したままか?」
「そうだと言ってます」

 弦を爪弾きながら、家出同然に毎回飛び出してきた弟子に苦笑する。大らかで柔らかい音が、夜を包むみたいに奏でられていた。
「この宮は親から子への世襲がほぼ決まっている。わしは父が楽師をしていたからこの道を自ずと選んだのだが………ユウリヤは父の仕事を継ぐのが嫌なのか?趣味の範囲でも楽しめるとは思うのだが」
 親から子へと受け継がれないのは、ただ一つ『神子』という役だけだ。これは世界でただ一人しか存在しない『星見』と呼ばれる役目の者が決める。星見とは、夜に浮かぶ綺羅の力を受けし半神半人の者で、何十年も何百年も生きると言われている。その所以は、顔や姿を大きな白い布で隠しており、性別さえも伺い見ることは出来ない。

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