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硝子の挿話

第5章 白夜

 常に三宮の中で一番の『神子』だけが星見と謁見することが叶うという話だ。
 しかし表舞台に出ることはない。それゆえに一般にはほとんど伝説としてしか語られていない。

 昔、星見が起した不祥事の物語。自ら選んだ姫神子に懸想し、姫神子を守る巫や騎士などを殺め、姫神子を手にかけようとした時、彼女を慕っていた王国の王がそれを討ったという物語。

 楽師はそれを伝え広める役を持っている。元々は王宮での娯楽を満たす為に生まれた職業が楽師なのだ。
 ユウリヤの師アルコバレーもまた、元は王権王宮側の人間であった。
 アルコバレーの父は、楽器や音色を広げるために王宮を離れたことで戸籍を抹消され、自らが流刑の道を選んだ。此処、太陽宮でアルコバレーは生まれたので、祖国を知らなかったが、特別にそれを気にしたことはないらしい。

「俺がやりたいのは、上流階級だけが楽しむ音ではなくて………もっと自由に弾きたいんだ!」






「そう言うが、民衆とて音楽を持っている」
「苦しみと辛さ、祝いと喜び…あるのは俺も知っています」
 例えば働いても苦労しても、すべからく奪われてしまう民のものだったり。奴隷として無理やり連行された者たちが祖国を懐かしみ、還りたいと嘆くものだったり。

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