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硝子の挿話

第6章 瓶覗

 瞳を閉じると、今も鮮やかな記憶で焼きついている。優しいのに、切なくて―――痛い。もう幽玄に融けた向こう岸にしか存在しない。
「ユウリヤ…」
「いいから黙ってろよ、俺が話したいって思ったのは、本当なんだからさ」
 視線だけで振り返ると、ティアはキュッと唇を引き結び、静かにユウリヤの話に耳を傾けてみせる。こそばゆい感じがして、照れもあった。
 胸の奥にかつて感じた柔らかく、淡い優しさを覚える。

「俺は月空宮で生活をすることになった」

 ブブルへ会いに朽ち木で組んだ家とも言えなければ、小屋とも言い難いほど崩れた中。葦で編んだ敷物の上で、彼は鎮座していた。
「動かないから死体なんじゃないかって思ったんだよな…」
「お身体の具合がよろしくなかったのですか…?」
 控えめに質問をしてきたティアに、ユウリヤも頷いていた。
「彼はね、俺の理解者だった…」
 アルコバレーの友というだけあって年齢は聞いていないが、真っ白で禿上がった頭は老齢であることが伺い知れた。
 両方の視力が低下してことで、日差しがきつい都市の中心から逸れた地下水路のあるこの場所に移住を決めたアウトローだった。
「………」
 キュッとしがみついてくる腕の力が強くなる。軽く触れる指先に熱を宿していた。

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