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　迷いを持った瞳が、まっすぐに見る瞳を捕らえる。少し離れた体温を求めて、ユウリヤは細い身体を強く引き寄せた。
　問題は深刻だとしても、辛い溝を幾重にも刻み残していたとしても。それでも二人は、初めて同じ瞬間に、覚えた幸福を胸に抱き締めた。
　はじめて心が繋がった感触は、思わぬ快感を教えるのかも知れない。





　時間がゆっくりと流れていく。


　濡れた全身が、穏やかな風にあおられて自然に乾く。言葉の要らない沈黙が、今はなんだか心地がいい。……
　夕陽がゆっくりと斜めに傾くのに、二人は離れられずにいる。すっかりと陽が沈んでも。互いの鼓動と波の音だけが聞こえていた。…
　二人のすぐ背後では、水耀宮からの迎えとして、サイティアが静かな面持ちで、二人の姿を眺めている。
　その表情はとても切なく、寂しそうであったが、ティアは気づかない。ユウリヤは赤く焼ける空に向かって、何かを呟くのを見た。

「………ろ…」

「え？」
　きょとんとするティアに、ユウリヤは確認した言葉に唇を同じように動かす。心配そうに見上げた瞳に、軽く首を左右に振り抱きしめる。その背中を撫でた。
　サイティアが呟いた言葉を、深く覚えておくために。
　彼が何の為に目の前の少女を手放したかは知らない。
　けれど流れる時間の間には、知り合うことも出来るだろう。そう思って今はただ、少し羽が生えた心で、小さな身体を抱きしめていたいと思った。





　幸せは薄倖であるほどに、歴史には繊細な彩りを魅せることを。もう最期の鐘は、既に始まりを告げようとしていたことを。―――…
　抱きしめる腕の感触と、鼻腔に覚える香り。それらは混ざり合い溶け合って、………永遠になる。