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硝子の挿話

第6章 瓶覗

 救いを求めるように、無意識の意思が迷走を深めていくようなユウリヤの腕をとる。楽師特有の繊細で綺麗な指に唇を寄せた。
「私は人間です…神ではないです―――それに私の出身は騎士団なのですよ」
 小さく笑いながら、ユウリヤの掌を頬に触れさせた。
「私は、生身なのです…切られれば血を流し、老いもする」
「この世で一番尊いと言われるくせに…」
「私の能力は特別でもなんでもないんですよ?…本当なら全ての人間が持つ能力なのですから…」
 寂しそうに顔を反らす。酷く傷ついた表情に、ユウリヤは両腕でまた抱きしめた。
「お互いがまるで迷路の中に居るけど……」
「手探りでなら、どんな暗闇でも進めますよ。一歩を踏み出すか踏み出さないか。問題はそれだけだと私は日々思っています」
 逃げてしまいたい気持ちと向かい合う度に、何度も繰り返してきた。
 何も見えない。闇の中を手探りで歩く方角を探す。自分の中の限界や、恐怖心との闘いだとティアは感じていた。

「見えている光が遠い…」

 消えそうなその光を、どうすれば守れるのかも解らない。ティアは埋まらない距離を見上げていた。
「お願いです…私を『特別』なんていわないで」
 ひとりぽっちに放り出さないでほしい。切ない願いを込めて両頬に触れるティアの冷たい手。泣きそうに潤んだ瞳に微笑した。

「一緒に不安を感じながらも、互いに手探りで未来を探すか?……俺はティアと居たい」

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