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硝子の挿話

第7章 徒花

 四年に一度だけに訪れる夏の祭典は、民達にとっても盛大な祭りだ。慌ただしく市街はざわめきが広がっていく。浮足立つ民たちは、その日の為の準備に取り掛かっていた。
 この祭りは星祭といい。太陽と月。地球が互いの引力により暦がズレる為に、あわせで設けられた特別な日である。暦の修正を重ねた三宮一同に集う一大行事となる。それが太陽天と同時に執り行われるというのだ。
 三つの神殿では大変な騒ぎだ。
 そして太陽天とは、通常一年の中で太陽が北に位置する太陽宮の円柱水晶にかかる日射時間が最大に長い日の祭り。全ては星見が、軌道を調べ執り行うという。また冬には『月灯天』と呼ばれる祭りも同様にある。
 これは太陽天とは逆に、かかる太陽の日射時間が最も短い日に行うのだ。
 この三大祭りは星見が全ての権限を持ち、宮はその要請に合わせて執行されるアトランティス最大の祭りであった。



「………」
 一番忙しくあるのは、祭りの開催位置として決められたティアの居る水耀宮。本来なら奔放している筈のティアは、仕事もなく汗水流しながら、働く巫たちに勇気を持って声をかけた。

「…何か、お手伝いすることありませんか?」

 こういう現場が目の前にあって、何もしないまま座って居られるほど、ティアの心臓は丈夫でない。元来から気は弱く、小心な臆病者であることを自分で知っている。覗きこんで精一杯の勇気を出した。

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