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闇夜に輝く

第19章 若菜と洋子さん

9歳で母親が死んで、数回しか会ったことのない父親に連れられ、海斗や海斗の母親といった見知らぬ人と住みはじめた若菜。
だけど頼りの父親は全然帰って来ず、全く血の繋がりのない新しい母親には汚物を見るような眼で扱われる。
そしてどんどんエスカレートしていき、半ばネグレクト状態に加えてヒステリックなまでの体罰も当たり前。
海斗はそれを目撃するたびに注意をしたが、だんだんそんな家に嫌気がさして高校時代はなるべく遅くまで外にいた。

だけど若菜は何処にも逃げ場がなく、ずっとそんな世界にいた。

5年後、父親の破産で一家離散となった日に海斗は若菜を見て一緒に住む事を決めた。
実母に死なれ、父に捨てられ、継母に捨てられた若菜。
哀れに思った。可哀想だと思った。助けたいと思った。
あれから8ヶ月。
けれど今は俺の方が助かっている。
兄らしい事なんて何も出来てないのに。
そう思い、提案してみた。

「俺が休みになったらどこか行くか?」

若菜は一瞬パッと明るい表情をしたが、それをすぐに引っ込めた。

「別にどっか行きたいところもないし、いいよ」

「遠慮しなくていいんだぞ?」

「いいって言ってるじゃん!お兄ちゃんこそ気を遣わなくて大丈夫だよ。この家が落ち着くから」

そう強く言われるとこれ以上何も言えなくなってしまった。
そして若菜はコーヒーをローテーブルに置くと、自分の部屋に行ってしまった。

はぁ、とため息をついてしまう。これ以上どうしようもないのでシャワーを浴びて家を出た。

いつもの神社で猫と戯れ、心を落ち着かせてから仕事に向かった。

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