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闇夜に輝く

第8章 初出勤


楓さんもいつもとは違う海斗の様子に驚きつつ、にこやかに話しかけてきた。

「いつもありがとね。筑波さんって営業中は必ずフロアを見ててくれるから助かるんだぁ。今までのボーイさんって忙しくなると呼んでも全然来てくれないのに、筑波さんは手を挙げる前に来てくれたりさ。この間も待機でキャスト同士で話してたんだけど、ボーイさん呼ぶ前に自然と筑波さんを目で探してるんだよね。そうすると、灰皿とかレディースグラスとか欲しいものを頼む前に動きを読んで持ってきてくれるし。私達が接客に集中出来るように配慮してくれるのとかすごいわかるから」

キャリアが長いキャストは接客中の視野が広い。
海斗の細かい動きにまでこうやって気付いてくれる。
嬉しい反面、なんだか気恥ずかしく感じてしまう。
なぜなら海斗がはじめからこのような事を出来たわけではないからだ。

「ありがとうございます。増田店長にその辺は厳しく言われてます。特に音には注意を払えって。灰皿を交換する音、アイスをグラスに入れる音、何かを落とした音。ジロジロと客席を見るのはお客さんに失礼だから、その音で次に何が必要か判断して準備しろって。それからキャストさんの好きなドリンクや、接客のクセをよく覚えてスムーズに対応していかないと忙しくなった時にテンパるぞとも言われてるんです」

「あー、そう言えば最近、指名が被っても流れがスムーズで、時間が押したりとかあんまり感じないかも。筑波さんが入る前まで酷かったからねぇ。西野なんてちょっと忙しくなっただけで、目の前で呼んでるのに全然気づかなかったり、呼ぼうと思ったらどっか行っちゃったり」

そう言って楓さんは少し前の状況を思い出したのか遠い目をしていた。

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