闇夜に輝く
第38章 同伴トラブル
つかささんから一瞬意識が逸れたこのチャンスを逃す手はない。
海斗は意を決して言う。
「そんな事、出来るわけないじゃないですか。店の前で迷惑なんですけど!」
案の定、その言葉に反応したその男が海斗のところへ、手をポケットに突っ込んだまま下から睨み上げるようにしてにじり寄ってきた。
「おい、もう一回言ってみろ!」
「あの子はウチのキャストなんすよ。いくら店の外だからってキャストが困る事に加担はできないんすよ」
海斗はなるべく冷静に言葉を返す。
しかしさっきの会話の内容を聞いていたためにこんな外道にヘコヘコした態度は取りたくはなかった。
車の方を見ると、つかささんが車から離れるタイミングを見計らっている。
海斗は視線だけで、逃げるように指示をすると、つかささんが一目散に逃げだした。
ヒールをカツカツと鳴らしながら走り去っていくつかささんに気付いたその男は
「おい!待て!」
と言うがそんな言葉につかささんが反応するはずはなく、既に繁華街の方へ走って行ってしまった。
さらに激怒したその男は海斗の胸倉を掴む。
「お前ら全員俺を舐めてんのか?ゴラッ!」
「いえ、俺は何もしてないじゃないですか。離してもらえませんか?」
「何余裕ぶっこいてんだよ!てめーんトコのケツ持ちどこだ、あ?」
「そんなこと言える訳ないじゃないですか。それにその辺の事情はあなたの方がよくご存知なんじゃないですか?」
男は海斗の胸倉を掴んだまま暫し無言で睨みつける。
一触即発の空気が流れるが、その時ビルの廊下を歩いて来る足音が響いてきた。