闇夜に輝く
第2章 週末の夜
入口付近のキャッシャーを見ると、増田店長が軽くうなずく。
海斗は5番テーブルへ行き、床に立膝をついた状態で客に挨拶をする。
「申し訳ありません。もう間もなく楓さんが戻りますのでお待ちください」
「もう間もなくって、そろそろ時間だよな。また楓が戻ってきてすぐ延長の確認来るんだろ?本っ当にえげつないなこの店は!」
「申し訳ないです。なにぶん店内がこのような状況ですから…。本当に申し訳ありません」
海斗は困ったような笑顔を張り付けたまま謝罪を繰り返し、水割りを作る。
その客は腕組みをしたままぶっちょう面で言い放つ。
「おい、店長呼んでこい!」
クレーム客が必ず言う言葉。今日はもう何人もの客から同じ言葉を言われている。
けれど、こんな事でいちいち店長に対応させていたらボーイ失格である。
海斗は膝立ちのまま一歩だけ客に近づき、頭を下げる。
「お客様、本当にもう間もなくで楓さんが戻りますから。もう少々お待ちください」
怒っている相手に自分から近づくというのは意外と有効な場合もある。
今回も客が少したじろいだ。
「は、話が違うぞ。俺は楓がちゃんと席に付くって言ったから来たんだぞ」
「はい、入店された時間はそうでしたが、その後ほかのお客様も入店されましたので……」
「俺は楓がずっとつくと思ったから来てやったのに!」
金曜日にナンバークラスのキャバ嬢が同じ客にずっと着くなんて事はほとんどありえない。
それはある程度遊び慣れているこの客も分かっているはずだった。
海斗は申し訳なさそうな顔をキープしつつも、客から視線を外さずに説明を続ける。
「はい、そこはお客様…、今日は金曜日ですのでご理解下さい。ただ、せっかく来て頂いたご指名のお客様ですし、店側としましてはできる限りのご配慮はいたしますので…」
海斗はそう言いながら客をジッと見つめる。
すると、客が視線を外した。
「チッ!じゃぁ何か持って来い!」
「はい、すみません。乾きものの盛り合わせをお持ち致しますのでご容赦下さい」
「わかったよ、早く持って来い。あとさっさと楓を戻せよ!」
「ありがとうございます。すぐにお持ち致します」
そうしてやっと5番テーブルを離れ、すかさず店長へインカムで報告する。