闇夜に輝く
第44章 幕間 想い
地下駐車場に停めてある愛車のポルシェに乗り込んだ増田は大きくため息をついた。
そして今までを振り返る。
初めてスカウトマンが理子を連れて来た時をいまだ鮮明に覚えている。
スカウトマンは恐る恐る時給交渉をしていた。どちらかというと、申し訳なさそうに。
その横で理子は不思議な雰囲気を纏ったまま何も喋らず、ずっと増田を見ていた。
増田は安過ぎる時給の提案に少し上乗せした保証時給を提示し、即決した。
最初の1ヶ月、波風は立たなかった。
変化が訪れたのは2ヶ月目。
理子への指名変えが立て続けに起こった。
当時のナンバー1キャストは太客の指名変えに腹を立て、理子に成績を抜かれる前に系列店のフェアリーテイルへ移籍した。
ナンバー2キャストは逆ギレし、営業中にその指名変えした客を接客中の理子に向かって酒をぶっかけた。
理子はずぶ濡れのままでも全く動じずに、指名客の服が濡れなかったか心配し、ハンカチで客の服を拭いていた。そして一言、
「私に文句があるのなら、お客様の迷惑にならないところでおっしゃってくださいね」
と言い放った。
その後、ナンバー2キャストは増田に向かって文句をいい続けた。
しかし、この事件はキャストの間でも客の間でも話題になってしまった。
対応のレベルの差にナンバー2キャストの評判がガタ落ちになり、半月後には店を去った。