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闇夜に輝く

第45章 闇夜に輝く夜の蝶



涙を拭うために少しだけ俯き加減の海斗の様子をしばらく黙って見つめていた村上様が、

「ボーイさん、一杯だけ付き合ってもらえるかな」

と、優しく語りかける。海斗はあわてて顔を上げ、頑張って笑顔を作る。

「はい。ありがとうございます。頂きます」

海斗は村上様の正面の丸イスに座り、グラスビールをオーダーしようと近くにいた秋山さんを呼ぼうとした。

すると村上様から提案される。

「一緒に同じお酒を飲まないかい?」

「よ、よろしいんですか?」

「なんとなく、ボーイさんとは気持ちが通じた気がしてねぇ。理子の魅力をちゃんと分かってるなぁって思ったんだよ」

そう言って、村上様はそばまで来ていた秋山さんにブランデーグラスを持ってくるように頼んだ。
すぐに秋山さんがグラスを持ってくる。

海斗が一本数十万円のブランデーを手に取り、少しだけ作ろうとすると、村上様がそのグラスを取り上げ、並々と作り始めた。
そしてそのグラスを海斗の前に置く。

海斗はその一杯に金額よりももっと違う価値があるように思えた。

「さ、乾杯」
「いただきます」

チンと高級なブランデーグラス独特の高い音が響く。
海斗は生まれて初めてそのブランデーを口にした。
芳醇な香りと重厚な味わい。
喉を通った瞬間、鼻からブランデー独特の香りが抜ける。
その素晴らしい一瞬に我を忘れて笑顔になった。それを見た村上様も笑顔になる。

「いい顔をするねぇ。この状況でそんな風にお酒を味わえるなんて素晴らしい事だよ」

「はい。とても美味しいです」

「良かった。ところで、ボーイさんのお名前は?」

「申し遅れました。筑波海斗と言います」

海斗は内ポケットから名刺を差し出す。
村上様はその名刺をまじまじと見つめ、懐にしまう。


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